1.車検の有効期限は延長できる？

日々の仕事が忙しかったり、手元の資金が足りなかったりして、車検の有効期限が延長できないかと考える方は少なくないでしょう。しかし残念ながら、私たちが車検の有効期限を任意に延長することは原則としてできません。

車検の有効期限の延長が認められるのは、大規模な自然災害など外的な要因により特定の地域に住む人々が一律に継続検査を受けられない場合のみです。道路運送車両法の第六十一条の二には以下の通り定められています。

（自動車検査証の有効期間）
第六十一条の二　国土交通大臣は、一定の地域に使用の本拠の位置を有する自動車の使用者が、天災その他やむを得ない事由により、継続検査を受けることができないと認めるときは、当該地域に使用の本拠の位置を有する自動車の自動車検査証の有効期間を、期間を定めて伸長する旨を公示することができる。
引用元：道路交通法 | e-Gov法令検索

この期限延長は個々の事情が勘案されるのではなく、所定の条件下で国土交通大臣から公示されます。つまり、自分から能動的に延長を申し出ることは原則としてできません。

では、具体的にどのような状況であれば「天災その他やむを得ない事由」と認められるのでしょうか？ まずは、過去に車検の有効期限が延長された事例からご紹介します。

2.車検の有効期限が延長・猶予された事例

車検の期限が延長された事例は、いずれも国や自治体による動きが必要とされる大規模な自然災害等が起きたときです。
2022年までに車検の有効期限が延長された事例の中で代表的なものは以下の3つです。

• 新型コロナウイルス感染症の影響
• 令和2年7月豪雨の影響
• 東日本大震災の影響

それぞれ順番に見ていきましょう。

新型コロナウイルス感染症の影響

特に記憶に新しいのが、2020年の新型コロナウイルス感染症のまん延防止を目的とした延長です。

当時、新型コロナウイルスの感染拡大が懸念されるなか、全国47都道府県すべてに対して車検期限延長が公示されました。具体的には以下のとおりです。

2020年2月に国土交通省から「2020年2月28日から3月31日までに有効期限が満了する車検の有効期限を4月30日まで伸長する」と公示されました。その後、4月に緊急事態宣言が発令したことを受け、「車検満了日2020年5月31日まで」の対象車は有効期限が「2020年6月1日」に延長され、最終的には「2020年7月1日」まで延長となりました。

令和2年7月豪雨の影響

令和2年7月豪雨は、九州を中心に西日本から東北地方まで日本の大部分で歴史的な大雨をもたらした災害です。このときも多くのエリアで車検期限が延長されました。対象エリアの追加や期限の再伸長など、たびたび状況が変化しました。九州や島根県、岐阜県など、特に被害の多かった地域を対象に、2ヵ月ほどの期限延長が行われています。

東日本大震災の影響

2011年3月11日に発生した東日本大震災は1万5,000人以上の死者と2,500人以上の行方不明者を生んだ戦後最悪の自然災害ですが、このときにも車検期限の延長が行われており、再伸長、再々伸長と複数回にわたって実施されました。初回延長では東北4県に加えて関東の1都7県も対象となるなど、幅広い地域が対象となりました。最終的に、特に被害が甚大だった岩手県・宮城県・福島県の一部地域と、その地域で救助・災害復旧・物資輸送等を行っている車両に対して、2011年3月11日～6月10日に満了日を迎える車検の有効期限が2011年6月11日まで延長されました。

3.車検切れになるとどうなるか

有効期限が迫っているのに、車検に出さず放置して車検切れとなってしまった場合、どうなるのでしょうか？

実は、車検切れ自体は違法ではありません。しかし、車検が切れた状態で公道を走行すると道路運送車両法に抵触し、以下の罰則が科せられます。

【車検切れで公道を走行した場合の罰則】

• 違反点数6点
• 6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金
• 最低でも30日間の免許停止処分

加えて、車検と一緒に自賠責保険の有効期限も切れていると、さらに重い罰則が科せられてしまいます。

【車検切れ+自賠責保険切れで公道を走行した場合の罰則】

• 違反点数6点
• 1年6ヵ月以下の懲役または80万円以下の罰金
• 最低でも90日の免許停止処分

なお、罰則については、以下の記事で詳しく解説しております。
play_arrow 「車検切れで知らずに運転した際の罰則は？免停期間や切れてしまった時の対処法も解説」

4.車検切れの場合の対処方法

すでに車検が切れてしまった場合にはどうすれば良いのでしょうか？ この場合は「仮ナンバーの取得」と「車検業者の引き取り」の2種類の解決策があります。

仮ナンバーを取得する

仮ナンバーとは、本来は公道を走行できない車に対して登録や検査（車検）などを目的とした一時的な運行許可を与える制度です。正式名称は「自動車臨時運行許可番号標」と呼ばれ、道路運送車両法の第三十五条で定められています。

（許可基準等）
第三十五条　前条の臨時運行の許可は、当該自動車の試運転を行う場合、新規登録、新規検査又は当該自動車検査証が有効でない自動車についての継続検査その他の検査の申請をするために必要な提示のための回送を行う場合その他特に必要がある場合に限り、行うことができる。
引用元：道路交通法 | e-Gov法令検索

通常は最大5日間が効力の上限で、車検を受けるといった特定の目的でしか走行できないなど制限がありますが、自力で車検業者まで車を運べます。ただし、自賠責保険も切れてしまっている場合には仮ナンバーを受け取れません。

仮ナンバーの発行は最寄りの自治体窓口が行っています。発行には「自動車臨時運行許可申請書」や「自動車損害賠償責任（自賠責）保険証明書」などの書類提出が求められる他、750円程度の手数料がかかります。

車検切れの車に乗れるようにする方法はこちらの記事でも詳しく解説しています。
play_arrow 「車検切れの車に乗れるようにするには？費用、売却や廃車の方法も解説」

車検業者に引き取ってもらう

自賠責保険切れで自分では対応できない場合や、仮ナンバーの発行を面倒に思う場合は、車検業者に依頼して引き取ってもらいましょう。「引き取り納車」などのサービス名称で提供されており、自宅に車を引き取りに来てくれたうえで車検合格後には自宅まで返してくれます。ただし、車を運んでもらうためには当然ながら料金がかかります。

引き取り納車については、こちらの記事でも詳しく解説しています。
play_arrow 「車検に出す車を取りに来てもらうことはできる？かかる費用や引き取り納車について解説」

5.まとめ

車検の有効期限は原則として延長できず、延長されるのは大規模な自然災害などによるケースのみです。個人の事情では延長の申し出はできません。万が一期限が切れてしまえば、仮ナンバーの発行をする手間がかかる、業者に引き取り納車を依頼する費用が発生するなどのデメリットがあります。現在の有効期限満了日から1ヵ月以内に入った段階で、できるだけ早く車検を通しておきましょう。

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